日本におけるカウンセリングの黎明期から紐解き、現在の心理臨床の状況まで触れられていますが、本書で特に中心に取り上げられているのが河合隼雄が日本に紹介した箱庭療法と中井久夫が考案した風景構成法です。
箱庭療法に関しては実際の症例が紹介されていたり、風景構成法は著者自ら中井久夫の元で風景構成法などを行う様子も描かれていて、知識として知っていた箱庭療法や風景構成法の理解が深まり、なるほどーと思うことが多かったですし、心理臨床やカウンセリングというものがまだそれほど普及していない頃の日本で、精神障害者や不適応状況にいる人たちをいかに理解するか、いかに治療するかをひたすらに追求し続ける心理臨床家たちの姿に心が熱くなりました。
本書で紹介されている箱庭療法や風景構成法は内面を表現する力によって成立する心理療法ですが、現在では、このような想像力を利用した心理療法がやりにくいケースが多くなっているとのことです。
つまり、自分の内面を表現し向き合うことができない人が多くなってきており、主体的に悩むことができないケースが増えてきたことを示唆しています。
対人恐怖症や境界例もかつてほど注目されることはなく、それに代わって、一体なにで葛藤しているのか分からずなんだかもやもやしていて、そのもやもやが一定以上に高まると突然にリストカットや薬物依存、暴力といった行動化が生じるケースが多くなってきたそうです。
そのため、従来の心理療法のあり方では効果がないことも多くなってきたそうで、また現在のニーズにあった心理療法が現れてくるのでしょう(もしかしてこういう背景があるからこそマインドフルネスが最近注目されてきているのかな?)。
著者はかつて『絶対音感』という著作で一躍有名になったノンフィクションライターで、さすが文書を書くプロだけに、心理臨床の専門家が書く本とはまた違う読ませる構成・文章で書かれています。
将来、臨床心理士を目指す受験生の方には、ぜひ読んでほしい一冊です。